ホルニストのためのレシピ

2025/08/24 21:40

ここを訪れてくださったあなたは、きっとホルンの演奏に対して真剣に向き合っている方だと思います。

そして真剣だからこそ、こんな壁にぶつかった経験はないでしょうか。



 「毎日長時間練習しているのに、ある時点から全く上達しない」


 「よく言われる『もっとリラックスして』『息のスピードを上げて』という感覚的なアドバイスが、よく分からない」

 「練習すればするほど何が悪いのか分からなくなり、暗闇の中をさまよっているような気持ちになる」



「ホルニストのためのレシピ」は、かつて私自身が経験した、そうした暗闇から抜け出すために作られた新しい練習の『地図』であり、進むべき道を照らす『灯台』です。



今回は、ホルニストのためのレシピの根幹となるコンセプトについて説明します。



なぜ、今までの練習法だけでは足りないのか?


もちろん世の中には素晴らしい練習曲や教則本がたくさんあります。それらを否定するつもりは一切ありません。しかし多くの伝統的な練習法は、しばしば「感覚的な言葉」や「根性論」に頼りがちです。


例えば、「高い音が出ない」という一つの悩みがあったとします。


これに対して、「もっとお腹で支えて」「とにかくたくさん息を入れて」「気持ちで負けないように」といったアドバイスがされることがよくあります。


これらは一概に間違いとは言いません。しかしこのアプローチは、絡まって固くなった糸の塊をただ力任せに引っ張ろうとするようなものです。運が良ければ解けるかもしれませんが、ほとんどの場合結び目はさらに固くなるだけです。



「高い音が出ない」という問題は多くの場合、一つの原因から成り立ってはいません。


「息の量」「息の圧力」「唇のセッティング」「舌の位置」「マウスピースの角度」「マウスピースのプレス」など、非常に多くの原因(変数)が複雑に絡み合った結果なのです。


伝統的な練習法はこれら全ての変数を一度に解決しようとするため、学習者は「結局、自分は何をすればいいのか」が分からなくなり、練習が「上達への道筋」ではなく、「答えのない暗闇での苦行」に変わってしまうのです。



課題を解決するたった一つの考え方『変数の分離』


「ホルニストのためのレシピ」が、他の全ての練習曲と決定的に違う点。それは全てのレシピが『変数の分離』という、たった一つのシンプルな考え方に基づいて設計されていることです。


『変数の分離』とは、「複雑な問題は単純な原因の組み合わせで出来ている。だから一つずつ原因を切り分けて、それぞれを個別に解決する」という考え方です。



料理に例えてみましょう。

作ったスープの味が決まらないとき、「とりあえず塩も砂糖もスパイスも全部足してみよう」とは考えませんよね。まずは「塩加減は適切か?」と塩味だけを確認し、それがOKなら次に「スパイスの量は適切か?」と香りを確認するはずです。一つ一つの要素(変数)を個別にテストすることで、初めて問題の本当の原因が特定できます。


ホルンの演奏もまったく同じです。

「高い音が出ない」という複雑な問題を、


 「息の量は足りているか?」

 「舌の形は適切か?」

 「唇の振動は効率的か?」


というように、単純な変数に切り分けて一つずつ検証し、改善していく。これが『変数の分離』です。



レシピがやっていること:一つの練習に、一つの目的を


この『変数の分離』という考え方を、具体的な練習メニューに落とし込んだのが「ホルニストのためのレシピ」です。


そのためほぼすべてのレシピは「一つの練習につき、目的は一つだけ」という鉄則を守って作られています。

例えば、Op.125「おしゃベリップスラー」というレシピ。https://gonzamethod.official.ec/items/115297960



このレシピの目的は、「息の量を変えずに、舌の動きだけで音を変える感覚を身につける」という、たった一つです。


練習中、奏者は「息を強くしなきゃ」とか「唇を締めなきゃ」といった他の変数を考える必要がありません。ただ、「おしゃべりするように舌を動かす」という変数にだけ集中すればいいのです。


これによりあなたは「ああ、舌をこう動かすと息の量を変えなくてもこんなに楽に音は変わるのか」という、明確な『発見』をすることができます。



練習を『作業』から『発見』へ


『変数の分離』に基づいて作られたレシピを使うことで、あなたの練習はこれまでのような「いつ終わるか分からない暗闇での作業」ではなくなります。


一つ一つの練習が「今日はこの変数を検証してみよう」という、明確な目的を持った『実験』に変わるのです。実験を繰り返すうちに、あなたは自分自身の身体の仕組みや、楽器の物理法則を、一つ一つ発見していくことになります。


「ホルニストのためのレシピ」が提供するのは、単なる練習メニューではありません。

それはあなた自身が自分の身体と楽器の『取扱説明書』を、あなた自身の力で書き上げていくための思考のフレームワークなのです。


このコンセプトが、あなたのホルン人生をよりクリアでより創造的なものに変える一助となれば、これほど嬉しいことはありません。